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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)52号 判決 1981年10月27日

控訴人 大倉産業株式会社

右代表者代表取締役 長井満

右訴訟代理人弁護士 渡辺一成

被控訴人 横浜市水道事業管理者水道局長 西脇巖

右訴訟代理人弁護士 上村恵史

同 会田努

同 北田幸三

同 大沢公一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の昭和五一年三月一六日付給水工事代行店指定申請に対する被控訴人の不作為は違法であることを確認する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その各一を各当事者の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人が昭和五一年三月一六日提出した給水工事代行店指定申請に基づき、控訴人を昭和五一年六月一日以降引き続き横浜市水道局給水工事代行店規程による給水工事代行店に指定すべき義務があることを確認する。

3  (当審で追加した予備的請求)

主文第二項同旨

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  (予備的請求に対し)

(一) 本件訴を却下する。

(二) (又は)控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  控訴人の主位的請求に関する当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張の補充

1(一)  被控訴人は、控訴人に対し、昭和五一年一月一〇日付通知をもって、給水工事代行店指定を同年二月一日から同年五月三〇日まで停止する旨の処分をした。その理由は、控訴人が昭和四六年一二月ころ横浜市港北区菊名町八六六番地訴外特殊建設株式会社申込にかかる給水装置工事に際し、給水装置から無届で分岐通水した等の行為が代行店規程(旧規程)第一二条第一三号(新規程第一三条第一三号)に該当するというものである。しかし、右工事は、控訴人において、所定の給水装置工事申込書を作成して被控訴人の職員に手交し、その立会を得て施行したもので、故意に工事を隠秘したものではなく、違反は軽微であったから、控訴人が、始末書を提出し、かつ、当時被控訴人において違反工事をした代行店に一種の慣行として課していた反則金を支払えば、不問に付される種類のものであった。しかるに、控訴人は、横浜市水道局港北営業所長から反則金の支払を命ぜられたが、そもそも、右反則金は、法律上の根拠をまったく欠いて徴収され、実質において水道条例第三九条所定の過料と同じ機能を果たしてきたもので、違法性を帯びたきわめて疑問のある慣行であったから、控訴人は、右要求に対し、反則金制度の根拠を問うたところ、反則金を支払う意思がみられないとして処分されたもので(換言すれば、反則金支払の意思があれば、処分の必要がなかった。)、その処分も、従前の処分例に比して異常に重く、事実関係の確認も不十分なものであった。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し右停止処分取消の行政訴訟を提起し(横浜地方裁判所昭和五一年(行ウ)第五号)、停止期間の経過により訴を取り下げて、横浜市に対し右処分の違法に基づく損害賠償請求の訴を提起した(同裁判所同年(ワ)第一〇三六号、東京髙等裁判所昭和五四年(ネ)第一二九九号。以下「別件訴訟」という。)。しかるに、被控訴人の態度は、右別件訴訟の係属中は本件申請に基づく代行店の指定を留保するというものである。

(三) なお、後記被控訴人の主張二3のように条例・規程等の解釈にくい違いが生じたことはなく、また、控訴人は、「条例及びその他の諸規程を誠実に遵守し、また貴局の御指示に従う」旨の誓約書を被控訴人に提出している。

(四) このように、別件訴訟の係属中は代行店に指定しないことが被控訴人の態度から確実であり、継続指定を留保していることは、留保の間、申請を却下する処分をしたのと同じ結果を生じているのであるから、単なる不作為の違法を問うよりは、指定の義務があることの確認を求めるのが適当である。

2  代行店の継続指定にあっては、新規指定と異なり、業務を行うに必要な知識経験、資力信用、営業所、機械器具の具備等、技術的、専門的な審査が必要な要件はすでに充たされているのが原則であり、これを充たしていないという反証やその他継続指定をすべからざる具体的な事由の存する場合のほかは、原則として継続指定をしなければならないのであって、制度の趣旨目的自体に照らし、右指定は、自由裁量行為ではない。被控訴人は、控訴人の本件申請に対して指定を留保しているだけで、前記要件について控訴人に欠けるところがあると主張しているわけではなく、控訴人が右要件を満たしていて通常ならば継続指定を受けうることは明らかであって、被控訴人は、控訴人が前記別件訴訟で横浜市と係争している限りにおいて、本件継続指定を拒否しているにすぎない。

3  行政庁に対する義務確認訴訟は、申請にかかる行政処分がなされない状態が申請人の法益を著しく侵害すれば許されるものと解すべきであり、回復しがたい損害が生ずることを要するものではない。

二  右控訴人の主張に対する被控訴人の答弁

1(一)  控訴人の主張1(一)のうち、被控訴人が控訴人に対しその主張の日付をもってその主張の期間代行店指定を停止する旨の処分をしたこと、その理由は、控訴人が給水装置からの無届通水をした等の行為が代行店規程に触れるものであったことにあることは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同1(二)のうち、被控訴人の態度が別件訴訟係属中本件申請に基づく代行店指定を留保するというものであることは否認し、その余の事実は認める。

(三) 同1(四)の主張は争う。

2  同2及び3の主張は争う。

3  控訴人が本件申請をした昭和五一年三月一六日当時、前記指定停止処分にかかる違反工事に関し、横浜市港北区内の一部代行店と被控訴人との間で条例規程等の解釈にくい違いが生じ、一部代行店が自己の解釈に固執し、独自の業務運営をするおそれがあったので、被控訴人は、同区内の代行店に対し、とくに規程第八条第二項(2)(ア)の誓約書のほかに条例、規程等の解釈についての誓約書の提出を求めたところ、控訴人を除くその余の代行店はすべてがその誓約書を提出した。これは、代行店が業務を的確に行うのに必要な「知識経験」(規程第六条第一項(四))を有するか否かを審査するための一資料とされた。しかし、控訴人は、被控訴人から求められた右の誓約書を提出しなかった。そして、控訴人が代行店指定処分を受けてその効力を争い、訴訟を提起していたことは、前記のとおりである(なお、別件訴訟においては、横浜市勝訴の第一審判決があり、昭和五五年二月一九日控訴棄却の判決があって確定した。)。

第三  予備的請求に関する当事者双方の主張

一  控訴人の請求の原因

控訴人のした本件給水工事代行店指定申請は継続指定の申請であるから、被控訴人は、従前の指定の有効期間が満了する昭和五一年五月三一日までに控訴人を引き続き代行店に指定するかしないかの処分をすべきであったし、そうでないとしても処分をなすべき相当の期間はすでに経過している。しかるに、被控訴人は、右申請に対していまだ何らの処分をしていないので、仮に義務確認を求める主位的請求が不適法又は失当であるとすれば、被控訴人が右処分をしない不作為が違法であることの確認を求める。

二  訴の変更についての被控訴人の異議

控訴人は、第一審第一三回口頭弁論期日において、「本件においては不作為の違法確認は求めない。」と明示に陳述していたのであるから、当審に至って予備的に不作為の違法確認を求めるのは、訴訟手続における信義誠実の原則に反する。また、本件の訴変更前の請求と不作為の違法確認の請求とは、請求の基礎を同じくするものではなく、しかも、後者を第二審において求めるとすれば、新たな争点についての審理が必要になることもありうるので、訴訟手続を著しく遅滞せしむべき場合にあたる。したがって、本件訴の変更は許されない。

三  右異議に対する控訴人の反論

不作為の違法確認は、法令に基づく申請に対し、行政庁が相当の期間内に許可不許可等の処分をなすべき応答義務があるにもかかわらず、これをしない場合の訴であり、他方義務確認訴訟は、行政庁のなすべき行為が法律上覊束されていて明白であるのに、行政庁がこれをしない場合の訴であり、いずれも行政庁の不作為に対する救済制度であって、本件訴の変更にかかる新旧両請求はその基礎を同じくするものである。仮に不作為の違法確認請求を予備的に追加することが許されないとすれば、これを別訴で請求することは妨げられないから、訴訟経済に反することとなる。

四  訴の適法性についての被控訴人の主張

1  被控訴人が控訴人の本件申請に対して応答をしないことは、行政事件訴訟法所定の不作為に該当しない。

(一) 本件申請に対する被控訴人の審査経過は次のとおりである。

(1) 被控訴人は、昭和五一年五月二六日、管工事協同組合理事長吉原一雄を通じて、控訴人に対し、同月二八日に横浜市水道局給水工事代行店審査委員会が開催され、控訴人の継続指定についても審査されること、右審査委員会の場で控訴人又はその代理人が意見の陳述、弁明等をする希望があればその機会が与えられることを告げて、出席の意思の有無を問い合わせたところ、控訴人から、いったんは出席の意向が示されたが、同月二八日朝に至って、吉原理事長を通じ、出席しないこととする旨の回答があった。

(2) 横浜市水道局給水工事代行店審査委員会は、代行店に関する事務処理の公正を図るために、(イ)水道の利用者を代表する者、(ロ)代行店の団体の役員及び(ハ)水道局の職員によって構成され、代行店の指定、指定の取消、指定の効力の停止に関することなどについて、被控訴人の諮問に応ずる機関である。昭和五一年五月二八日に開催された同委員会においては、前記違反工事に関して控訴人の代行店としての適格性すなわち代行店としての「知識経験」の有無が審査され、利用者側委員から、控訴人には違反工事についての反省の念がなく、条例規程上は違反工事であることが明白であるにかかわらずこれを違反でないと解釈する控訴人は、再度同種の違反工事をするおそれが強いとの指摘があり、継続指定をすることに難色が示された。そして、同委員会の結論としては、控訴人に対し同年六月一日からの継続指定はしないこととするが、控訴人が同委員会に出頭するなどして、自己が行った工事が違反工事であることを認識し、今後再びこのような違反工事をしないであろうという心証を委員会に与えるのであれば、審議を再開し、指定の可否を答申することとする旨を決定し、これを被控訴人に答申した、右委員会の決定及び意向は、五月二八日の夕方、右委員会委員である吉原前記組合理事長から同組合港北支部山根佐太郎を介して控訴人に伝達され、被控訴人は、右答申を尊重して控訴人を代行店に指定しなかった。しかるに、その後右委員会が右のような心証を控訴人から取り付けることができないでいる間に、同年六月一〇日、本件訴訟が提起された。

(二) 代行店の指定は既述のとおり被控訴人の自由裁量事項であり、また指定申請に対し被控訴人が応答義務を負わないものであるから、被控訴人は、前記委員会の答申どおり、控訴人が再び違反工事をしない旨の心証が得られれば、速やかに同委員会を再開し、再びその審査を受けて指定をする意向のもとに、控訴人の申請について指定の可否を保留していた。しかるに、控訴人は、本件義務確認訴訟を提起し、訴訟中で本件指定につき不作為の違法確認としては争わないという明確な態度を示したので、審査委員会は、控訴人を再び代行店に指定するか否かの審査をすることなく、その取扱いを本件訴訟の推移に委ねることとして、現在に至った。

2(一)  本件申請は、昭和五一年六月一日から同五四年五月三一日までと指定の期間を区切って申請されたものである。また、本件申請は、継続指定の申請であり、控訴人の従前の代行店資格が同五一年五月三一日をもって消滅するので、同年六月一日から継続指定がなされなければ、申請は却下されたことになる。すなわち、本件申請に対し被控訴人が応答をしなかったのは、昭和五一年五月三一日をもって右申請を却下した趣旨である。

右却下の理由は、控訴人が前記無届通水工事に関し、配水管又は給水装置からの分岐部分の工事を自ら行うことができる旨、水道条例施行規程七条の二の定めを誤って理解していて、代行店として業務を的確に行うのに必要な知識経験(新規程第八条第六条(4))を有するものとは認められないことである。

なお、仮にその後右知識経験に関する要件が充足されて、審査委員会の再開を求め、その結果再び代行店に指定するとすれば、これは新規指定であり、終期は三年以内である昭和五四年五月三一日であった。

(二) 右の却下は、管工事協同組合理事長吉原一雄を通じて控訴人に通知され、かつ、継続指定された業者名は市報に登載されて公告されたので、従前から代行店指定の公告の方式について熟知している控訴人は、自己の名が市報に登載されていないのを見て、申請が却下されたことを了知した。

(三) 仮に右(二)の主張が認められないとすれば、被控訴人訴訟代理人は、本訴の当審第七回口頭弁論期日(昭和五六年七月九日)において、同日付準備書面に基づく陳述をもって、控訴人に対し、被控訴人が昭和五一年五月三一日本件申請を却下したこと、却下の理由は前記のとおり控訴人が代行店として業務を的確に行うのに必要な知識経験を有しているものとは認められないことであることを告げて、処分の通知をした。

3  仮に右却下処分が認められないとすれば、被控訴人訴訟代理人は、前記口頭弁論期日に前記準備書面に基づく陳述をもって、昭和五一年五月三一日に遡及して本件申請を却下し、また右遡及が認められないとすれば、右期日において却下処分をする。

4  仮に、右申請却下の効果が認められないとしても、継続指定の期間は三年と定められている(新規程第一二条)ので、昭和五四年五月三一日の経過によりもはや指定をすることができなくなったから、不作為の違法確認の利益はない。

五  右主張に対する控訴人の答弁

1  右被控訴人の主張四の1はすべて争う。

2(一)(1) 同2(一)のうち、控訴人に対する従前の代行店指定が昭和五一年五月三一日までで、本件申請が同年六月一日からの継続指定を申請するものであり、指定があれば、その有効期間が指定の日から三年であることは認め、その余の主張は争う。本件申請は、同五一年六月一日から同五四年五月三一日までと期間を区切って申請したものではない。新規程第一二条(旧規程第一一条)により、指定の有効期間は指定の日から三年であり、指定がない以上、指定期間の終期は到来しないから、被控訴人が控訴人を代行店に指定すべき義務は現在も存在する。

(2) したがって、昭和五一年六月一日に継続指定がなかったからといって、本件申請が却下されたことにはならない。

(イ) 代行店に指定しない却下部分には、控訴人が規程第八条に定める基準に適合しない事実すなわち処分の理由が必要であるが、その事実は存在しない。控訴人が代行店指定の要件を充足していることは、前記のとおりである。

(ロ) 継続指定がなされない間は、控訴人が代行店の業務を営むことができないだけで、指定が遅れても、指定の時から業務を再開できるのであるから、応答留保は却下と同じではない。

(ハ) 行政行為は、行政庁の主観的意図ないし願望にかかわりなく、客観的にその性質が決定されるべきである。

(ニ) 応答留保が却下の趣旨であるならば、処分取消の訴を提起することは著しく困難であり、不作為の違法確認等法定の抗告訴訟によって争う途も閉ざされることとなる。

(二) 同2(二)のうち、控訴人が、経過は別として、継続指定を受けていない事実を知ったことは認める。

(三) 同2(三)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

4  同4の主張は争う。前記のとおり、指定の有効期間は指定の日から三年である。また、控訴人は、指定がないため代行店業務を営むことができないで現在に至っており、昭和五四年六月一日以降について再度の継続指定申請をすることは論理的に考えられず、仮に申請をしても何ら応答を得られないであろう。したがって、たとえ指定の有効期間が経過しても、本件の法律関係は終わるわけではなく、本件訴の利益は失われない。

理由

第一  当裁判所も、控訴人の主位的請求である義務確認の訴は不適法であると判断するものであって、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三三枚目裏七行目「覊束されていて、」の次に「行政庁に自由裁量の余地がまったく残されていないために」と加入し、次行「程に明白であり」を「と認められ」と改める。

二  同三六枚目裏四行目に「適確」とあるのを「的確」と訂正する。

三  同三七枚目表一行目(同三五頁一段四行目)の次に行を変えて左のとおり加入する。

「 なお、控訴人が、被控訴人から無届通水工事を理由に、代行店指定停止処分を受け、その効力を争う別件訴訟を提起している事実は、当事者間に争いがないが、控訴人主張のように、被控訴人が、もっぱら右訴訟係属を理由に本件申請に対する代行店の指定を保留する態度であって、指定のその余の要件は充足されていることを承認していた事実又は右要件の存在が客観的に明白であったという事実を認めるに足る証拠はない。控訴人は、本件申請が継続指定の申請であるから、原則として指定の要件は充足されている旨主張するが、前記のとおり、指定基準は新規指定と継続指定とで同一であり、継続指定にあっては、新規程に基づく予備指定申請を省略しうる(新規程第五条第一項)などの若干の手続上の相違があるほか、指定の要件の審査にあたって、従前の指定期間中の工事の実績を評価し(新規程第一二条第三項(2)参照)、そのほか、前指定時の審査を前提として審査資料をある程度簡略化しうる等の相違は考えられるとしても、継続指定時における指定の要件の存否を実質的に判断しなければならず、その判断が技術的専門的な見地からなされることを要するものであることは、新規指定の場合と何ら異るところがないものと解されるのであって(実質的要件に関する申請人の状況が前回指定時から継続指定時までまったく変化がないものと推定しうる合理的理由は見出しがたく、したがってその審査を省略しうるものではない。)、継続指定であるが故に、右要件の存在が一見明白であって、被控訴人の判断を経るまでもないものであるとは、とうてい解することができない。」

四  同三七枚目裏一〇行目から三八枚目表一行目(同三二行目~二段一行目)にかけての括弧内を全部削除する。

第二  予備的請求について

一  まず、当審において予備的請求を追加する訴の変更が許されるか否かについて検討する。

1  控訴人が、原審において、不作為の違法確認は求めない旨を陳述したのは、原審における訴が義務確認の訴のみであることを釈明したものと解され、将来にわたり訴を変更し又は別訴をもって不作為の違法確認の訴を提起することはしない旨を約したものと解することはできない。したがって、控訴人が、原審において義務確認の訴が却下されたのち、当審においても右訴が容れられないことを慮って、予備的に不作為の違法確認の訴を提起することが信義誠実の原則に反するものということはできない。

2  本件義務確認の訴は、控訴人の本件申請に対し、いまだ許否の処分がなされていないことを前提として、被控訴人において指定処分をなすべき義務のあることの確認を求めるものであり、不作為の違法確認の訴は、右同一の申請に対し指定又は指定拒否のいずれの処分もなされないことが違法であることの確認を求めるものであって、両者は、基本たる事実関係の主要部分を共通にし、したがって請求の基礎を同じくするものであることが明らかである。また、不作為の違法確認の訴にあっては、本件申請に対し被控訴人が応答すべき義務があるか否か、これがあるとして、いかなる手続上の段階、時点において処分をしないことが違法となるかが主たる争点となるのに対し、義務確認の訴にあっては、同様に応答義務の存在を前提問題としたうえで、いかなる手続上及び実体上の要件が充足されたときに指定処分がなされるべきであるかが、少なくとも訴の適法性に関して、争点とされるのであって、両者の争点は実質上はおおむね同一であると解され、本件義務確認の訴について原審以来提出された資料をもって、不作為の違法確認の訴の適否及びその請求の当否の判断の資料とするのにほぼ十分であって、後者についてとくに新たな証拠調べをする必要はないものと認められるので、後者の追加的併合を許しても格別訴訟手続を遅滞させるものとは認められない。

3  本件義務確認の訴については、原判決は、本案の判断に入らず、訴を不適法として却下したものであるが、前記のとおり、右訴と不作為の違法確認の訴との争点は実質上おおむね同一であり、後者の訴の適否及び請求の当否について判断すべき事項は、第一審において前者の訴の適法性に関して審理、判断された事項と同一であるかないしはこれと表裏をなすものであって、後者についても実質上第一審において審理がなされているものといえるから、当審において不作為の違法確認の訴の追加的併合を許しても、被控訴人の審級の利益を害するものではないと認めるべきであり、したがって、このような事情のもとにおいては、本件訴の変更を許容するのが相当である。

二  そこで、本件申請について被控訴人の応答の義務について検討する。

すでに横浜市水道条例、新規程及び旧規程の各規定に基づいて検討したところによれば、代行店の指定を受けようとする者は、定められた期日までに一定の方式に則った指定の申請をし、申請に対し、被控訴人は、申請人が所定の基準に適合しているか否かを審査し、適合していると認めたときは、申請人に更に所定の手続をさせたうえで、代行店の指定をするものと定められており、指定を受けた者は、給水区域内において独占的に水道事業を営む横浜市の水道につき同市に代行して給水装置工事を施行しうる資格を取得するもので、右資格の有無は、水道工事業者の事業経営を左右するものであると認められる。したがって、被控訴人は、代行店指定の申請に対しては、それが所定の方式に則ったものであるかぎり、実質的要件を審査したうえ、代行店の指定をし又は指定を拒否(申請却下)する旨のいずれかの処分をしなければならない義務を負うものと解すべきである。そして、控訴人のした本件申請が旧規程の定めに則った適式なものであったことは弁論の全趣旨から明らかであるから、被控訴人はこれに対して処分をしなければならないものというべきである。

三  次に、処分の有無について判断する。

1  被控訴人は、事実欄第三、四1のとおり、指定の可否を保留することが行政事件訴訟法にいう不作為に該当しない旨主張するが、被控訴人が本件申請に対して応答義務を負うことは前記認定のとおりであり、右主張のような経過、理由のもとに応答を保留していたとしても、それが不作為にあたらないという根拠は見出すことができず、右主張は失当である。

2  控訴人に対する従前の代行店指定の有効期間が昭和五一年五月三一日までであり、本件申請が同年六月一日からの継続指定を求めるものであったことは、当事者間に争いがなく、継続指定の申請については、従前の指定の有効期間満了の日の二か月前までに指定の申請をすべきものとされていて(新規程第一二条第二項、旧規程第一一条第二項)、右満了の日までに指定がなされることが通常の事態として予定されていることは、窺知することができる。しかし、規程上、継続指定の申請に対し従前の指定の有効期間内に指定がないときは申請を却下したものとみなす旨の規定が存在するとは認められないし、右期間経過後、ただちに指定がなされないため、申請人がいったん代行店の業務を中止しなければならないこととなっても、その後に指定を受ければその時から代行店の業務を行うことができるのであって、そのことに利益がないとはいえないのであるから(その場合の指定が「新規指定」であるか否かは言葉の問題であって、申請人の利害に重要なことではない。)、右期間の経過によって指定の申請が無意味になるものとは解されず、《証拠省略》によっても、本件申請が、とくに申請の趣旨を限定し、同年六月一日からの指定がなされることを必須の要件としたものとは認められないので、仮に申請却下の処分が黙示になされうるとしても、同年五月三一日の経過によって却下処分がなされたものと認めることはできないというべきである。したがって、被控訴人の主張四2は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

3  更に被控訴人は、その訴訟代理人において本件口頭弁論期日に却下処分をする旨主張するが、処分が訴訟代理人の権限に属するものとは認められないから、右主張は理由がない。

仮りに右主張の趣旨は、被控訴人が右期日外においてその主張の却下処分を行い、訴訟代理人が被控訴人を代理して右期日において控訴人にその旨を通知するにあるとしても、被控訴人がそのような却下処分をしたとの証拠はない。被控訴人の右主張は採用しない。

4  代行店指定の有効期間は原則として三年と定められ(新規程第一二条第一項本文、旧規程第一一条第一項本文)、右期間は指定の効力を生ずる日から起算すべきものと解される。そして、継続指定においては、通常は従前の指定の有効期間の満了に引き続いて指定がなされるものと解されるが、例外的に前期間満了後時日を隔てて新指定がなされる場合には、指定の有無にかかわらず前期間満了の翌日から三年の期間が進行を始めるものと解する根拠はなく、指定がなされない間は新たな三年の有効期間は進行せず、指定のなされた日から右期間が進行すること(その際、新規程第一二条第一項但書により三年未満の短縮された期間が指定された場合でも同様である。)は、事の性質上自明のことというべきであって、これに反する《証拠省略》はとうてい採用しえない。そうすると、いまだ申請に対し指定又はその拒否の処分のない本件においては、従前の指定の有効期間の満了から三年を経過したのちにおいても、指定の日から三年間(又は特別の事由があるとしてとくに短縮された一定の期間)控訴人が代行店資格を保有しうる可能性は存在し、したがって不作為の違法確認を求める訴の利益は失われないものというべきであって、この点に関する被控訴人の主張も理由がない。

四  以上のとおり本件訴は適法であるから、被控訴人が本件申請に対していまだ応答していない不作為が違法であるか否かを検討する。本件申請のように継続指定の申請であって、従前の指定の有効期間満了の日の二か月前までに申請書を提出すべき旨の規程の定めに従い適式の申請がなされている場合には、特段の事情のないかぎり、右期間満了の日までに指定又はその拒否の処分がなされることが予定されているものであり、審査資料の不足その他の事情のために右の日までに処分をなしえない特段の事情があるときでも、その後できるだけ早急に(せいぜい二、三か月の間に)処分がなされるべきであると解される。しかるに、被控訴人は本件申請に対して何ら処分をせず、処分をなすべき相当の期間はつとに経過していることが明らかであり、被控訴人が処分を保留する事由として主張する事情(事実欄第三、四、1等)は、処分をしないことを適法ならしめるに足るものとは解されず、そのほか被控訴人の全主張立証を検討しても、処分をしないことについての正当の理由を見出すことはできない。したがって、被控訴人の不作為は違法であるというほかはなく、その旨の確認を求める控訴人の請求は理由がある。

第三  以上の次第で、本訴の主位的請求である義務確認の訴を不適法として却下した原判決は、相当であって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却し、当審において追加された不作為の違法確認の請求は、理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 野田宏 藤浦照生)

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